第1章
第一話 ICチップの向こう側
金曜日の朝礼は、いつもより長かった。本社からのシステム導入についての説明だ。マイナンバーカードや運転免許証のICチップを活用した本人確認が、来月から段階的に導入されるという。紙の書類を減らし、照合時間を短縮し、セキュリティを強化する。説明は妥当に聞こえた。
だが、店舗に戻ると違和感が拭えない。この十年、ここで数えきれないほどの顧客と向き合ってきた。契約更新、機種変更、トラブル対応。その多くは書類とペンの儀式だった。顧客の身分を確認する際、私たちは本人の顔を見ていた。表情から信頼関係が生まれることもあれば、警戒心が浮かぶこともあった。
新しいシステムなら、それらが効率的になるのだろう。チップをスキャンすれば、データベースが一瞬で本人を認証する。人為的なミスは減る。ただ、何かが減るのではないか。その何かが何なのか、まだ言葉にならない。
来週から試運用が始まる。顧客がカードをかざす姿を見ることになるだろう。その時に、私は窓口でどんな表情をしているのか。効率的で、正確で、でも何か大切なものが、窓口の向こう側へ消えていく。そんな予感がしている。
続きはまもなく
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